盛夏の高山本線
盛夏の高山本線
盛夏の高山本線
4時半に起床。すんなり目が覚めた。というか夜中30分毎には目覚めていた気がする。というのも何やら廊下を出入りする音が結構聞こえるのだ。まぁ人の気配があるのは嫌なものでもないので、適当なBSチャンネルを付けて気を紛らせていた。

起床しすぐに準備を終え、チェックアウト。チェックインの時の中年夫婦とは全く異なり、茶髪の25歳くらいの女性が応対してくれた。何だこんな人いたのか(だからどうする訳でもないがw)と思いながら朝の空気に飛び出した。
案の定、昨夜見た「ねぐら」が騒々しい。中には飛び立っていく者もいる。ちょうど列車と同じタイミングである。朝方、車両区で気動車のエンジンが掛かっている様とよく似ている。
駅には4時40分頃に着いてしまった。準備が早すぎたようだ。まだ改札が開いていない。東の空は十分に明らんできており、遠くの電波塔の背景が橙に染まっている。夕景色は勿論この上なく愛しているが、朝焼けの独特な淡い色合いも実に美しい。数枚写真を撮ったあたりで改札が開き(4時45分に開くようだ)、18きっぷに捺印を貰いホームへ。


美濃太田500 キハ48 6815
2時間気動車に揺られる旅の始まりである。進入時は5両連なって来た気動車を2+3に分離させ、3は岐阜、2が猪谷へと向かう。広島での似たような光景を思い出す。テールランプ同士がお互いを照らし合うのだ。
橙の朝焼けは見えていたが、空にはその後しばらくは朝霧が白く広がった。昨日運転規制が掛かっただけあり、飛騨川の水量は非常に多い。途中ダムを右手に眺めるところではゴウゴウと白濁して激流となっていた。飛騨金山駅での交換待ちでは少し撮影、朝霧が山に掛かり、如何にも夏の朝といったショットとなった。
飛騨川の流れを見ながら、青モケットの国鉄型気動車に揺られる夏の朝、実に贅沢である。
飛騨小坂では交換列車が国鉄色。車中で当日分の予測などを全て把握しておいたので、本日の撮影は盤石である。そこから1駅間、営業キロにして7.1km、前面展望でロケ地を確認し、渚駅にはちょうど7時に到着。

ホームに停車するキハ48を撮影。ここでは朝霧は抜け、青空が広がっていた。とても色の濃い空色、奈良線の朝を思い出す。C-durよりはD-dur、少し脂っこいくらいの青である。


■1枚目(1710D、渚738→小坂746)
最初の1枚は小俯瞰構図。国道41号線は岐阜から富山まで高山本線沿いを走っている幹線であり、渚駅付近では線路よりも2~30mほど高い場所を走っている。そこのカーブ区間を上から見下ろす構図がある。直接急斜面を登る道は全く無いので、1.5kmほど歩いて渚駅から地図上の距離にして300mほどの地点に向かった。
国道41号線、この区間は歩道が無かった。波久礼が脳裏に浮かぶ。朝一番からいきなり過酷である。幸い側溝に水がたまっていない区間が殆どであり、車両が来た時はここに逃げ込んで歩いていくことで危険を冒さずに撮影地に着くことが出来た。
しかし一番危険なのが撮影地であった。側溝は山側に掘られており、撮影地は崖側。ガードレールを跨ぐと残す道の幅は30cmほどであり、その先には20mほどの垂直な崖、下にはこんもりと軽く高さ3mほどはあるであろう藪が広がっている。そんなところに立っているのも国道を走る車の運転手からしてみれば恐ろしい話であるので、せめて撮影時までは目立たぬようにとガードレールを超えた30cmの幅のところにちょこんと座ってガードレールに体を隠していた。待つこと10分、光線状態が朝の雲の影でころころと変わっていく中で露出などを調整し、本日1枚目の撮影は上り列車の後追いである。ちょうど列車のあたりにスポットライトのように強い光が落ち、純白の列車を輝かせる。ほぼ終日逆光の撮影地なので、夏の朝のみ絵である。危うく露出オーバーであったが、夏の鬱蒼とした黄緑色の藪、3重になる山が雰囲気を出していた。


■2枚目(1705D、渚819←小坂806)
来た道を帰り、さらに飛騨小坂側へと歩いていくと、鉄橋をちょうどその延長線上から見下ろす事の出来る場所がある。この構図は結構珍しい。ここで朝食(2度目)を取り、次の下り列車を撮影。これまた順光であり、このあたりは計画通り。予想以上の強い日差しに、非常にコントラストの強い1枚となった。


■3枚目(1709C、渚834←小坂825)
次の下り列車が連続しており、撮影間隔20分と短いのだが、ここは撮影地が未定であった。想像よりも遥かに光線が強いので、とにかく光で撮影地を決めようと、従来の漠然とした計画とは逆に線路の東側へと進んでみると、なんとも美しく橋と川、山を絡められる構図があるではないか。しかも恐ろしいほどの順光。そしてそう、次に来るのは国鉄色+標準色である。舞台が揃った。
遠くの猫に挨拶をし、これまた10cm幅のコンクリートの防波堤のようなものの上に立ち、撮影。この1枚は全く予想外の収穫であり、予想外にして最大という、実に素晴らしいものとなった。「夏すぎる夏」といったところか、など、撮った時には既に題名をどうしようかと考えを巡らす程であった。


■4枚目(1711C、渚819←小坂806)
次の撮影まではここからブランクが開くため、移動に充てる。途中「女男の滝」に寄ってみる。この滝は41号線沿いにあり、滝自体は木々に隠れてその全貌を拝むのは難しいが、その滝を落ちた水が流れゆく渓流が実に涼しく美しい。41号線のアスファルト上と渓流沿いは気温にしておそらく5度程度の差があり、実に心地よい。木漏れ日が流れや滝壺を照らしており、その様を撮影していたら時間があっという間に経っていた。移動計画がぎりぎりになりかけていたので、さらに先を急ぐ。

一気に山間の区間を通り抜け、定番ポイントであるシェルター付近まで移動する計画である。渚駅から3.5kmほどのポイントに、予定通りに到着。途中自転車1台、歩行者2人(畑仕事の方)、釣り人1人を見掛けたのみ。残りは自動車。まぁ、こんな場所歩いている人間がいる筈もない。
既に9時を回っており、太陽は高くなってきた。飛騨川は川幅が比較的豊かで、あちらこちらで青鷺を見掛ける。川を横断している電線のちょうど中央に烏が止まっており、あたりを眺めまわしていたのが微笑ましい。直射もあって暑かろうに、それでもそこからの眺めが素晴らしいのだろうか。烏という鳥は考えがありそうな行動を取り、実際そこに考えがあるようだから面白い。

定番ポイントは撮り方を迷うも、遠くの橋、中央、後追いの3枚を、シェルターを抜きにして撮る事に。結局これでほぼやりたいアングルを網羅してしまったw 渓流と列車が接近する場所だけあり、撮影は申し分なく成功。
水量も豊か、陽射は水面を海のような青に染める。木々はハイコントラストを演出し、空は突き抜けて真っ青だ。そこに純白の国鉄型が音を立てて走ってくる。じりじりと肌を焼かれる感覚、歩道からの照り返し、かすかに聞こえる蝉の声、それを掻き消す渓流のゴウゴウという流音。どれ一つとっても申し分のない夏模様であり、あまりにも出来すぎているように思った。


■5枚目(1714C、渚1052→小坂1100)
さて次の列車も同様のポイントで(先程の列車から1時間半経っている)、先程の構図をマイナーアレンジして撮影。光線状態も微妙に変わってくるので、先程後追いは顔が半逆光だったのが今度はほぼ順光になってくる。そのあたりも計算しながらの撮影。これで基本構図は未練なく決める事が出来た。

水辺に降りられるポイントがあるかと必死で探すも、現実的な構図は見当たらない。というのも水量が多すぎて、川岸というものが殆ど無く、すぐに岩、そして藪、といった状態なのだ。本当は水飛沫と同じレベルまで降りて行って撮るというイメージが出来ていただけに、少し残念。これはまた別の機会に出来るだろうか。

さらに少し進んだところで41号線の上を線路がクロスする場所があり、ここは終日日陰が出来る。ここに陣取り、昼食。そして川を見るとカワガラスがいた。彼らも昼食時であったようで、獲物を求めて秒速3mはあるであろう渓流にスポッと飛び込み泳ぎ回り、ほぼ同じ場所にスッと顔を出す。カモは勿論、ウを凌ぐ泳ぎの能力に思わず見入ってしまった。脱帽である。

次の普通列車が14時半頃なので、3時間ほど暇であるw 特急列車を遊び半分で撮ろうにも、あまり遊ぶ構図も無いので、練習に充てる。撮影が終わったら日陰へ移動。日陰も刻一刻と動いていくので、荷物もそのたび動かしていかなければならない。しまいには撮影ポイントには全く影がなくなってしまった。しかしこの体験で、11時から13時までに太陽が大きく方角を変え、その前後はあまり横には動いていかないという、自身の持つ感覚との大きなズレを感じることが出来た。10時と11時では、さほど太陽光線の回り込み方に差が出ないのだ。とても不思議であるが、帰宅して計算してみればすぐ分かるのだろうか。しかし太陽位置の計算では三角関数の合成がやたら出てくるので、個人的には好きではない。


■6枚目(1717C、渚1438←小坂1429)
さて、半ば考える事もなくなり呆然としていたころに、ようやく撮影対象がやってきた。この1枚はシェルターに入るところを望遠で切り抜く事に。それなりの距離があるのでピン合わせも少々難しいのだが、問題なく決める事が出来た。特急で練習していたのが大きいだろう。水から離れた写真でも十分、十二分に夏らしいコントラストが出て、太陽光というのはすごいものだ。この区間は線路500mほどを眺めることが出来るので、初めに見えたところで遊びショットを決め、十分な調整をして本命の1枚、という撮り方が出来た。遊びはフル望遠で手前の木々をぼかして撮影。


■7枚目(1718D、渚1515→小坂1523)
さて次は4連が目当て。4連を美しく撮れる場所はこのスポットには無く、その次の2連を撮るイメージの構図もあまり無かったので、ここは予定より1本早くこの場所を去り先へ向かうことに。さらに1.5kmほど歩き、直線の鉄橋を国道から少し俯瞰する構図。4連には向いていることは事前の調査で把握済である。準備というのは成果物に直結する。昼下がりの完全なる順光の下、真っ白な4両編成が駆け抜けていった。この過疎区間をこの壮大な編成が走っていくのは実に違和感があるが、完全なる夏の絵である。とにかく空に雲がない。


■8枚目(1719D、渚1611←小坂1602)
次の列車は40分後、逆向きがやってくるので、これまた少し先に移動し、大垣内の橋へ。橋渡りを真横から捕えられる有名スポットであるが、この時間帯は完全に逆光。このあたりは線路が南北に走っており、下り列車の顔は必ず逆光になってしまう。逆光で遊べないかとこの構図で工夫を凝らし、こんな形でいってみようかと思った瞬間、列車がやって来た。なんと8分も時刻を間違えていたのだ。危ない所であった。通常画質で撮ってしまったり若干ピン甘であったりと、幾つかミスの代償を払うこととなったが、とりあえず絵にはなっただろうか。いやはや危ない。


■9枚目(1722D、渚1650→小坂1658)
さて、次の一本は岐阜方に国鉄色という順光の上り列車。これをどう仕留めるか考えると、このあたりに構図があまりないことから、2本前の4連を仕留めた鉄橋に戻り、2両用のバランスで斜光線の下撮影するというプランに決めた。既に山の端に太陽が近付いており、斜陽が山向こうに隠れてしまうかもしれない…そのギリギリの攻防、おそらく駄目であろうと最初から分かってはいたが、その地点では先行通過であり渚駅で交換する下り特急が5分遅延したのにはさすがに苛々した。結局、この特急には申し分の無い斜光線が降り注いだが、お目当ての普通列車の通過時には太陽は山の向こうへ行ってしまい、空と奥の集落のみが黄系の色に染まっていた。何とも残念であるが、撮影とはこのようなものである。十分絵にはなっているし、そう全てが上手くいくものではない。そもそも晴れているだけで幸せなのだ。


■10枚目(1721C、渚1743←小坂1734)
これで本日9本の撮影が終了。残す1本は、どの場所ももう日も当たらないので、適当に飛騨小坂の近くで撮ることに。たまたま私道の踏切で、少し強引ながらも田圃と線路を絡めて撮れる構図があった。暗くもなってきていたため、ここに三脚を立てて列車を待つ。初めは列車側にピンを置いて若い稲穂をぼかす構図を考えていたのだが、途中で考えを改めこれを逆転。若い稲穂の奥に列車の顔とヘッドライトがぼけて写る構図に。これが裏目に出て、なんと稲の向こうから運用差し替えの国鉄色がやってきてしまった! 三脚付きなので臨機応変にも撮れず、何とも「高い遊び」をやってしまった。

最後2本、なんてオチだ!!と思いながら、残り1.5kmの道を歩く。途中で猫の写真など撮りながら、ようやく一日をかけて長い道のりを歩み、飛騨小坂駅に到着した。何とも言えない達成感である。

今日は12kmは歩いたであろうか。駅入口の道にゲート状に掛かる「温泉郷」の看板が閑寂を煽る。駅から山側に車を走らせると3つほど温泉があるらしい。特急も止まる駅であるので待合室は非常に広いが、がらんどう。やたら大きいガが十匹以上入っており、ソワソワするのも束の間、一日の疲労がどっと出て来たので、眠気まで催してしまった。列車が来るまで1時間強、この誰もいない日没前後の駅で過ごす。

1927飛騨小坂 キハ48 6809
2123 美濃太田 キハ11 101

1911発の下り列車を撮影し、そのままホームに滞在していると、上り列車は思ったよりもすぐにやって来た。日中の3時間を潰した後であるので、短く感じられたのかもしれない。ちょうどマジックアワーが終わり、夕闇が駅を包みこもうという日没30分後、列車は飛騨川沿いの寂れた駅を去った。
一日の疲れがここでも出て、乗り換え時に国鉄色を目撃したので撮影した以外は、ほぼ岐阜まで爆睡であった。

岐阜駅ではムーンライトながらまで1時間弱。コンビニを探して放浪するも駅前に無い!大垣よりも酷い駅の作り(いかにもJR東海らしい)に苛立ちながら、もう良いと自販機でお茶を2本ほど買い、ぼんやりと時間を潰す。眠くてもう頭があまり回らないのだ。

2259 岐阜 ムーンライトながら クハ189-11
東海道線の遅延の影響で、7分ほど遅延して岐阜駅に国鉄特急型の10連が滑り込んできた。最後尾の1号車に乗車。車内はかなり空いていて、隣の男性は英文法の教科書を読んでいたが、私よりも先に眠りに誘われたようで、名古屋のあたりで落ちていた。そんな事を思う私も昨秋泊まった尾頭橋のホテルリブマックスを見送った後は、熱海停車中まで記憶が無い。

次に起きれば横浜駅前の放送がかかり、また寝て品川、そして東京到着。こんなに快眠した夜行は初めてかもしれないというくらいに、ぐっすりと休んだ。それだけ疲れていたのだろう。
あけぼのを撮影しに行くプランも立てていたのだが、いろいろな思惑(w)よりこれを断念し、朝方帰宅。
昨日はあの日本らしい自然の夏景色の中に身を置いていたのに、その翌朝の朝食を自宅で食すというのは、計画通りとはいえ実に不思議であった。


かくして真の非日常はあっというまに終わって行った。計5.5リットルの水、18きっぷ+奈良井→美濃太田の乗車券、ながら指定券、これだけの出費でこんなにも夏を味わえるのだ。前日の岐阜県南の雨や猛暑で一時は取り止めも考えた計画であったが、適切な判断で安全にすべてを回る事が出来たのも一つ評価出来るところか。しかしまた同時に近年の異常気象を考えるといつどこで自然災害に見舞われるか分からない。このような撮影行が出来るのも、そう長くはないのだろうか…。
旅行中はとにかくがむしゃらであったので、何か沈思するという事は無かったかもしれない。帰ってきて写真を見返すところで、あれこれと思索が続いた。ただ一つ間違いないのは、この上ない「夏の日常」を映し出す事が出来たということであろう。


写真
1枚目:1709C
2枚目:1711C
3枚目:1722D

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